「欧州解体」ロジャー・ブートル著 東洋経済新報社
2015-12-27


ここ最近続けて出版されているイギリス人によるEUの行方に関する本。
概ねEU存続派と解体派の立場から書かれているが、本書はその後者となる。

著者の主張の幾つかを紹介する。
まずは、EUの成り立ち。
「現在、私たちがEUと呼んでいる組織は第二次世界大戦の惨禍から生まれた。…全欧州の人々が、一般人であると政治的エリートであるとを問わず、二度と同じことを繰り返してはならないと心に誓っていた。…そのルーツは1950年代に創設されたEUの政治と制度、そしてその精神に存するのである。」

そして、EUが大きくなるにつれて、その精神が変質していく。
「創設メンバーであると新顔であると問わず、各国の政治エリートたちは明らかに利己的な関心を持っていた、つまり欧州の統治に参画しそれによって利権や権力そして金を手に入れようとしていたのである。」

その経済運営にも大きな問題があるとする。
「今やユーロ圏全体で少なからぬ経常収支の黒字を出しており、その額は世界のGDPの0.5%ほどに上る。原油による黒字が蒸発する2015年度には恐らくユーロ圏が世界最大の経常収支の黒字を記録することだろう。…そしてデフレがひとたび人の心理に根付けば、容易に取り除くことはできない。その時経済的パフォーマンスは悪化しユーロ圏の政策立案者が直面する課題は困難の度を深めることになる。…それでもドイツが大幅な財政緩和を行う見込みは高くはない。」

そこで、著者の結論である。
「結論を言うなら、ユーロは最初から失敗作だった。EUが国内政治や外交的妥協、国家の威信への配慮、子供じみた欧州統一への夢などに突き動かされ、経済の現実をほとんど考慮しないまま最悪の意思決定をしたなれの果てがユーロなのだ。」

すでにEU解体のその後の世界まで描いてみせる。
「論理的には、ユーロ解体はEUにいかなる影響も与えないだろう。単に以前の体制に戻るだけであり、それは完全に存立可能だ。」
そして、
「ハプスブルク帝国は何世紀にもわたって欧州の列強の一つだった。…シェーンブルン宮殿などの見事な建造物だけが過去の栄華をしのばせるのみだ。近い将来、ブリュッセルのEU本部を訪れた観光客もやはり失われた権力に想いを馳せることになるのではあるまいか。」

本書によれば、もはや、EUの役割は終わったかのようである。
ただ、本書の結論はやや性急な面も否めない。
もう少し、多角的な議論を待とう。

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