本書は、表題の通り人間における意識は何かというテーマで脳を扱った本である。
今話題の脳科学を中心に、哲学的な領域までも踏み込んで実に興味深い書籍に仕上がっている。
医者である著者は医学生時代の脳を解剖した際の物体として脳とそこに宿る意識の深淵さとの乖離の大きさを出発点としてわれわれをぐいぐい引き込んでいく。
以下、興味を惹かれたところを記述する。
・手術中に意識を取り戻す患者は通常1000人に1人の割合と言われているが麻酔薬が手の先に届かないようにして実験すると3人に一人は意識があるという結果になるという。
・外界とのコミュニケーションが取れない植物状態の脳も、意識がある場合があるのではないかとの疑問から行った実験結果。 その一つは、fMRIを使って、健康な被験者と脳に損傷を負って全く意識がないと診断された患者を使って、テニスをしているところを想像させるよう話しかけたところ全く同じ大脳の特定の部分に反応が現れたという。同様に、著者たちが開発したTMS脳波計を使って脳に刺激を与えて現れる波形を調べると、脳に損傷を負って植物状態とされた患者にも正常な波形が現れる時があるという。
・また著者が開発した意識の測定装置(一定の刺激を与え、その反応を測定する機械)を使った実験もなかなか興味深い。これによれば、覚醒している時と寝ている時では、脳への刺激を与えた時の反応が全く異なる。ここで、意識がある状態とない状態がほぼ特定される。
・そして、脳に意識が生まれるには、外界との刺激が必要になり、脳内で因果関係を捕らえるための反応がシナプスのつながりによって徐々に複雑な出来事をとらえられるようになっていく。
・小脳は、脳にある1000億個のニューロンのうち、800億個があり、意識が宿るとされる視床皮質系の200億個に比べると圧倒的に多い。
・また、動物には意識があると言えるのかの考察や、コンピュータによってニューロンネットワークを再現して意識が生まれるのかといった考察も興味深い。
いずれにしても、意識が生まれるためには、非常に微妙なバランスが必要であるということがわかる。
著者は、最終章で「一なる組織」と定義しその組織を構成する要素間に因果関係があるかどうかが基準になるとし、意識が生まれるのは、情報量が最大レベルに高まった時だという。
科学における意識へのアプローチは一筋縄ではいかないが、そこに至る探求の旅の奥深さを感じた。
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