「21世紀の資本」トマ・ピケティ著 みすず書房
2015-02-11


言わずと知れた世界的ベストセラーである。
その厚さを感じさせない内容で、一気に読めた。
やはり、話題の本だけあって、多くの問題提起と、斬新さが織り交ぜあって、非常に考えさせられる点が多い。

まずは、独自のデータに基づくグラフとその説明が非常にわかりやすい。
なおこのデータの出典は、ネット(http://cruel.org/books/capital21c/)で見ることができる。

加えて、国民所得の解説から始まり、資本所得比率の定義、そして資本収益率rまで、経済学の教科書とでも言って良いほど、経済の基本から解説しているために専門書にもかかわらず非常に読みやすい。
それまで理論上の経済学を実証的に初めて分析したクズネッツ(彼の手法が本書の基礎になっている)や、ハロッドドーマ理論やソロースワンモデル、トービンのqなど、数式モデルを多用した理論の世界ではなく、現実の各国経済などにあてはめて丁寧に端的に解説する。また著者は、表題のとおりマルクスを意識してはいるものの、これは成長率がゼロの特殊なケースと切り捨てている。

興味をそそられたところはいくつもあるが、
まず、産業革命以来の世界の成長を表した図表によれば、1700〜2012年の一人あたり世界の成長率は年率平均わずか0.8%しか増えていない。しかし著者は、年率がわずかでも、時間の枠組みを変えると大きな差となって現れることを明かす。そして、戦後の世界経済の高成長が続くと考えるのは幻想にすぎないとも述べる。

また、公債について1810年台のイギリスが国民所得の200%に達していたが、民間資本は安定し、30%を切るまで1910年までかかったことに触れている。ここでリカードが登場し、莫大な公的債務を抱えていても、ある集団が別の集団に負う債権にすぎないとする。まさに現在の日本に通じる。
また、EUのマーストリヒト条約を批判し、公的債務総額を制約するのは合理的根拠がないとして米国やイギリスとともに日本も例にあげている。

もう一つ、日本についてはドイツと並び、国民所得の70%の純外国資産を蓄積し、均衡資本所得比率が非常に高くなっており、第二の危険性(政治的緊張の可能性)を示しているとしている。

そして、あのr>gを示し、現在は不労所得生活者社会から経営者社会になっていると指摘し、特にこの傾向はアメリカで顕著であると断定する。
加えて、20世紀を通じて各国の保健医療・教育・社会支出の増加は社会国家の構築を反映したものであるとし、高等教育へのアクセス、賦課方式の年金制度の改革、公的債務の問題など今の日本にも通じる議論の後、累進税と世界的な資本税の構想を披露する。

本書の分析結果と提言について、不完全で不十分だと断った上で、多くの議論をしてほしいとしている点は好感が持てる。
また経済学者である著者が、経済学は科学ではなく、社会科学の一分野に過ぎないとしている点も興味深いし、全く同感である。

本書がもたらした多くの問題提起が、世界の政策に影響を与えることに期待するとともに、今後の経済学へも大きな影響をもたらす著作となることを確信した。

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