「危険不可視社会」畑村洋太郎著(講談社)
2010-06-05


本書は、あの六本木ヒルズの回転ドア事故を「ドアプロジェクト」を立ち上げ、検証した畑村氏による最新作である。
 本書を通じ、今のこの国の行き過ぎた危険を排除しようとするあり方への警鐘を鳴らしている。

典型的なのが、多くの遊び場から、遊具が撤去されていくという事態である。
 また、30年以上前の古い扇風機を原因とした火事やパナソニックのFFファンヒータの回収など、過度にメーカーに責任追及させる社会への懸念を表明し、地震や事故の後、設備のダメージは大きなものではなかったのに、再稼働までに多額の費用と時間のかかる原発もこの国の特徴的な事例として、あげている。
 原発への対策として、ボイラーの例を挙げ、一つの技術分野で十分な経験を積むには200年はかかると言い、原発の安全率を高めて社会の拒否反応を鎮めてはどうかと提案する。

さらに、機械式駐車場や工場の運搬用エレベータ、エスカレータなどの報道されない使用者の不注意を原因とする事故。急増している自転車の対歩行者の事故とその危険性など、マスコミには取り上げられない事故の未然防止策にも触れている。

危険を排除するというのではなく、その危険をいかに低減していくかの視点を持たなければ、この国の未来も危うい。
 どこかおかしな方向へ向かっているこの国の軌道修正を図るためにも、必要な著作である。

それにしても、著者の「危険学プロジェクト」の基本姿勢には敬服する。 「ベキ論ハズ論は言わない。」、「社会の健全さを当てにする。」、「国のお金は使わない。」、「強いコントロールはしない。」

だからこそ、説得力と実現性のある結果が出ているのだと感じる。

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