植物と地球環境との関わりを、植物の誕生からたどり、最新の研究成果を取り入れて、植物がいかに環境に適応してきたか、また地球環境へいかに大きな影響をもたらしてきたかを探る大作である。また、二酸化炭素の排出による地球温暖化への影響についても、より大きな視点から捉え直している。
以下、印象に残ったところを抜粋する。
・「植物は、二酸化炭素を使って、年に1050億トンものバイオマスを合成している。そのうちの約半分は単細胞の植物プランクトンである。」
・「過去の大気の二酸化炭素濃度は、4億年から3億5千万年前の間に大きく変化している。当時の化石土壌の分析によると二酸化炭素は現在より15倍も多かった。それは二酸化炭素濃度が増えるにつれて葉の作る気孔が少なくなっていることからわかる。」
・「葉の大きな植物が進化するのに実に4000万年の時間がかかった。それは、高濃度の二酸化炭素が障壁となった。」
・「酸素濃度は、約3億年前に30%にまで上昇し、その後15%まで下がったことがわかっている。酸素濃度が高い時期に、大気圧が高くなり、巨大昆虫が出現した。」
・「2億5000万年前、地球史上最大の絶滅があった時期にオゾン層が壊れていたことを当時の植物胞子の化石が示している。」
・「火山噴火が引き金となり、空気中の二酸化炭素が増加。海の表面で暖められた水が対流によって海底へと運ばれ、凍っていたハイドレートを揺り起こし、メタンガス放出の引き金となった。この説であれば、2億年前に起こった大量絶滅を統一的に説明できる。」
・「過去5億年のうち80%近い期間は、極圏まで森が広がっていた。そこには、常緑樹ではなく、落葉樹が多かった。実験では、炭素を湯水のように使うのは、常緑樹ではなく落葉樹である。」
・「水蒸気は、太陽からの入射熱より、地上からの反射熱に強く働く。この効果によって、熱を地上にとどめ、宇宙に放出しない」
・「二酸化炭素濃度が少なったため、それまでより効率的に光合成をする仕組みを持つC4植物が出現した。また、C4植物の出現によって、火災が頻繁に起こるようになり、森林の発達を遅らせた。」
・「もしも植物が進化していなかったら、世界は今とは全く別のものになっていたに違いない。植物なしでは、陸上の岩石の化学的変化は促進されず、大気中の二酸化炭素濃度は現在の15倍になっていただろう。その結果生まれる温室気候は、地球の気温を10度も上昇させ、極地は氷に覆われることはなく、海水位は今より数百メートル高くなっていただろう。」
また著者は、最終章で、人間が排出するエアロゾルによって地球に届く太陽光線の量が減少する「地球薄暮化現象」や、過去50年にわたる水の蒸発量が減少している発見なども取り上げ、まだまだ謎が多いことが多いと筆を置いている。
こうしてみると、植物の果たした役割の大きさを感じざるを得ないし、まだまだ大きな謎が取り残されていることがわかる。
ただ、少なくとも植物の進化と地球環境の変化を通じて、太古の昔からこれからの気候変動までも見通すことができるとも感じる。
また本書には、多くの科学者が登場する。その一つ一つも読み物として面白い。
良質な科学書である。
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